2012年3月28日 (水)

2011年度 都高情研研究大会 参加報告

関連記事


(B)

東京都高等学校情報教育研究会 2011年度研究大会」に参加した。

リンク先には当日のプログラムが掲載されていないので、こちらで復元してみる。

講演:『著作権 過去から未来へ(著作権3.0~ソーシャル時代を迎えて)』
講師:大貫恵理子

専門委員報告

口頭発表(1)
・「普通教科情報における「肖像権」と「プライバシー観の変遷」に関する授業実践」
・「三原色と混色について」
・「生徒をそに気にさせて、担当も楽しむ映像製作」

ポスター発表・企業展示見学
・「展示を活用した情報表現の授業実践」
・「世界の国々を紹介しよう!」
・「生徒をそに気にさせて、担当も楽しむ映像製作(デモ編)」
・その他企業展示

口頭発表(2)
・「プライベートクラウドによる生徒・家庭・教職員をつなぐCHaT Net」
・「授業で行うポスターセッション」
・「ソーシャルリーディングを活用したアクティブラーニング」

今年度の研究大会も多くの刺激を受けた。以下にメモを残す。

【1】講演会

特許や著作権の歴史的な背景がとても勉強になった。特に、欧米での特許は国王から特別に認められた権利という国家権力統治の形で発展したのに対し、日本では職業別組合(≒ギルド)による村社会統治の形が続いていた点だ。その後、日本はベルヌ条約に加盟するべく著作権法を制定したとの解説であった。授業に活かせるかは難しいが、著作権観を理解する背景知識として重要だと理解した。

著作権法に関する様々な説明は初心者向けだったので細かい話は省略されていた。情報科教員の著作権に関する法的理解が課題だと感じた。

最後の指摘が非常に印象的でした。聞き間違いだったらゴメン。

  • 法は社会の変化を見極めてから変わる
  • 教育は社会の変化に先んじて変わる

【2】三原色と混色

光の三原色と色の三原色は情報科の授業でよく取り上げるのだが、その詳細の入口が提示された。加法混色に種類がある事を初めて知り、納得感があった。生徒にさせる実習も簡易なものなので、まねができそうだ。参考文献もあるので自分も学びたい。

【3】ラーニングピラミッドとアクティブラーニング

ラーニングピラミッドはググれば状況は良く分かる。発表ではアクティブラーニングの手法が紹介された。細かい気配りのある実践報告で、取り入れるには工夫が必要だと感じた。ラーニングピラミッドは自分の経験則にも合致しているので、何とか理解度を高める授業を展開したい。情報科教員というより、純粋に教員として勉強になった。

【4】企業展示の教科書会社

決戦前夜の6社揃い組。(発行者番号順)

水面下の準備が大詰めを迎えており、出版社の方々が笑顔で立ち話をしているのが印象的であった。つばぜり合いなのか、余裕なのか。4月からが楽しみである。

2012年3月21日 (水)

思い切って読んでみよう - 1984年

(T)

ビッグブラザーというキーワードは知っていたのだが、そのキーワードが登場する小説『一九八四年[新訳版]』は長編という事もあり敬遠していた。だが、「社会と情報」で個人データやプライバシーを扱う以上読まないわけにはいかない。思い切って読んでみた。

この小説にはコミカライズ作品が2つあるので、同時に読んでみた。

小説なので核心に触れる部分に触れる事は出来ないが、注目した部分をメモする。

■「読んだふり本」第一位

訳者のあとがきによると

 (前略)しかも英国での「読んだふり本」第一位がオーウェルの『一九八四年』だというのである。一九八三年から八四年にかけて英国に滞在した折、『一九八四年』が何ヶ月かにわたって、ベストセラー・リストのトップを走っていたと記憶するのだが、あのときのペンギン版はかわれたまま書棚にしまわれたのだろうか。(後略)

一九八四年[新訳版]』訳者あとがきより

だそうである。

512ページのというページ数は小説をほとんど読まない層にはドン引きだが、実際に読んでみると負担感はほとんど感じなかった。小説読まずの私が数日で読破できたのだから、多くに人が読破可能だと思う。

プチカミングアウト。私は「ビッグブラザー」というキーワードは知っていたが『一九八四年[新訳版]』という書名を知らなかった。

■コミカライズ作品

詳細はコメントできないが、コミカライズ作品『まんがで読破 1984年』と『COMIC 1984 』はいくつかの内容が割愛ないし圧縮されている。コミカライズ作品を読むことで、改めて原作が良くできていると感じた。一般論として、コミカライズ作品を読む場合は原作を読んだ後の方が良い。

余談だが、『まんがで読破 1984年』はまんがで読破100冊目のタイトルだそうだ。

■社会と情報との関連

本書のキーワードである「ビッグブラザー」や「テレスクリーン」は情報社会と関連がある。

例えば、「Googleは情報社会のBig Brotherなのか?」とか「ステルスマーケティングやcookieは現代版テレスクリーンなのか?」とかが考えられる。

特にGoogleの影響力は非常に大きいので、個人情報やプライバシーと関連させた授業は必要だろう。収集した個人情報に関しては、社会学やら経済学やら法学やら、様々なアプローチが可能だ。

是非、一読を。

一九八四年[新訳版]

まんがで読破 1984年

COMIC 1984

2012年2月20日 (月)

高校数学・新課程統計分野研修会2012冬 参加報告

(M)

高校数学・新課程統計分野研修会2012冬に参加しました。

個人的に「勉強になった」と感じた事をメモします。

■1.大淵先生
「数学1Aの「課題学習」を通じた対策」として「データの分析」が実は救世主であるとコメントされました。その理由は

  1. 最後にデータから「判断」をしなくてはいけない。
  2. 問題解決力をつける大きなポイントになる。

の2点です。高校数学では解答は一つであり、解き方に別解が存在する程度ですから、結論を学習者が「判断」することはありません。高校数学という環境で高校生が「判断」や「問題解決」を学びとるのはほとんど不可能だと感じます。しかし、統計であれば意思決定が必要になりますから、統計が数学における「課題学習」の回答となる可能性があります。とても共感できる内容でした。

■2.渡辺先生
相変わらず熱弁をふるっていました。その中で、

Big Data の時代に合わせた統計教育

とのコメントは情報科教員としてとても大切な観点だと感じました。クラウドやらBig Data やらのキーワードを使って情報社会の授業を展開するのも良いと思いますが、それを支える科学や技術に触れる事も大切です。数学科との関連も踏まえると、情報科教員が統計学を学ぶ価値は高いと思いました。

余談ですが、統計が活躍する映画「マネーボール」を一生懸命に紹介されていました。渡辺先生ご自身は野球をあまりご存じないように見受けましたが・・・

■3.芳賀先生
実務的な話を聞く事が出来て貴重な体験でした。メモが取れたのは、

  1. 表計算ソフトでは小数点の位置を揃えてデータを見やすくする事
  2. ROUND関数を単純に使うとデータに偏りがでるので、丸める桁が偶数の場合は切り捨て、奇数の場合は切り上げる事
  3. 因果関係のあるデータをグラフにする場合は、原因を横軸に、結果を縦軸に取るのが標準的である事
  4. 因果関係のないデータをグラフにする場合は、予測したい変数(例えば体重)を横軸に、予測に用いる変数(例えば身長)を縦軸にとるのが標準的である事
  5. 散布図に書き込む楕円と相関係数rの関係

です。情報科の授業でエクセルを使うことがありますが、実際の運用に関しては知らない事が多いのが実情だと思います。芳賀先生が書かれた書籍も購入しようと思っています。

■4.竹内先生
やや内緒の話を聞きました。

■5.高橋先生
大変熱血な話を聞くことができました。紹介された模擬体験は消化するのに時間がかかりそうです。今回は若干別の観点から印象に残った事をメモします。

  1. 問題と課題の違い
    問題:基準と現状のギャップ
     *原因があり原因を追及して予防する
     *解析(原因追究)が決め手である
     ★現状を基準に是正する事が問題解決である

    課題:希望と現状のギャップ
     *原因はなく条件を創造して実現する
     *設計(条件創造)が決め手である
     ★現状を希望に引き上げることが課題達成である

情報科教育界隈では「問題解決」や「課題解決」といった言葉が良く聞かれますし、新課程における「情報の科学」の内容はザ・問題解決と評される事もあります。しかし、いわゆる「解決系」の話題の本質を聞いた事はありませんでした。高橋先生のコメントは今後の情報科教育にとって重要な意味を持つと感じています。

今後、高等学校の情報科教育でどちらをどのように取り扱うのかは分かりませんが、両方とも大変にタフな話題だと思います。

■まとめ
高等学校の情報科教育を振り返ると、最初の10年は「問題解決」だったかもしれません。教育環境を構築する事が先決ですから、現状を分析して問題を発見し様々な対応をしていたと思います。私自身も、他教科と同様の教育環境という基準を目指していた気がします。

今後の10年は「問題解決」だけでなく「課題解決」も必要になると思います。高等学校における情報科教育の現状を、希望に引き上げる中心人部は情報科教員なのですから。

(`・ω・´) キリッ

2012年2月17日 (金)

情報社会への歴史的経緯を知る手掛かり - 情報社会を読み解く(改訂版)

(T)

社会学の先生に情報社会を読み解く改訂版を紹介されたので読んでみた。初版は2004年3月であるが、私が読んだのは2011年5月の改訂版。

前半は情報社会について、後半は教育の情報化と情報科教育について書かれている。

注目した部分を以下にメモする。

■「社会的技術」に注目した社会の変遷

情報科の授業では現時点での情報社会を取り扱うが、直接扱ってもその特徴は見えてこない。授業で使えそうなネタとして、自分は歴史的経緯や過去との比較に注目している。本書が紹介しているのは以下の3つ。

1)ダニエル・ベルの「前工業社会」→「工業社会」→「脱工業社会」

2)アルビン・トフラーの「農業社会(第一の波)」→「工業社会(第二の波)」→「超産業社会(第三の波)」

3)増田米二の「狩猟社会」→「農耕社会」→「工業社会」→「情報社会」

増田米二氏が提示した社会の変遷は「社会的技術」に注目している。まとめとして[社会的技術]-[人間の能力の増幅]-[学力基盤]の関連が提示されていて授業に活かせると考える。

注意点もあると感じている。それは、学力基盤が変わったと読めてしまうことだ。現実には学力基盤が積み重なっていると考える。例えば、言語の運用は昔も今も学力基盤である。情報技術が発達したからと言って、過去の学力基盤が不要になったわけではない。

「聞く+話す+読む+書く」だとか「暗記」だとか「計算」だとかといったものは今後不要になるわけではない。情報社会ではこれら従前の学習活動に加えて「情報活用能力」や「情報の科学的な理解」、「情報技術の習得」などが要求される。

ときどき「ICTで学びが変わる」という声を聞くが、本質的に変化するとは考えにくい。むしろ「ICTで学ぶことが多くなる」と考える。

■まとめ

序章「情報社会を読み解く鍵としてもメディア」、第1章「情報社会information societyの特質をどう捉えるか」、第2章「我が国における情報社会の進展」は収穫がいろいろ。

第3章「情報社会における人間関係と倫理と法」、第4章「『教育の情報科』と情報教育」、第5章「情報教育とコンピュータの教育利用」、第6章「情報教育の展開―新しい社会を創造する人間育成」は教養として読むということで。

:-P

別件だが、キャプテンシステムの存在を初めて知った。

是非、ご一読。

情報社会を読み解く改訂版

2012年2月11日 (土)

学会・研究会の予定 - 2012-2-11版

(B)

都内のイベントを2つ追加。

  1. 東京都高等学校情報教育研究会 研究大会
  2. 情報教育研究会 第2回総会・講演会

都高情研の研究大会は毎年恒例の年度末行事である。今回はNPO著作権教育フォーラム大貫恵理子氏の講演「著作権 過去から未来へ(著作権3.0-ソーシャル時代を迎えて)」が目玉である。是非参加したい。

情報教育研究会は2年目を迎えての総会と講演会。ウェブで経過を見ていた限りでは日程が定まるのに二転三転していたようだ。会としての安定感はこれからということか。詳細は明らかではないが、教科書説明会がとても気になる。

カレンダー形式は社会と情報 学会・研究会カレンダーを参照のこと。

メモメモφ(゚д゚)

(B)

2012年2月 5日 (日)

学会・研究会の予定 - 2012-2-5版

(B)

年度末は研究会が多いねぇ。

今後の予定をリストアップしてみる。カレンダー形式は社会と情報 学会・研究会カレンダーを参照のこと。

メモメモφ(゚д゚)

(B)

2012年1月31日 (火)

「ムーアの法則」で情報科教育は変わるか? - 過剰と破壊の経済学

(T)

情報科の教員であれば「ムーアの法則」という言葉を一度は聞いたことがあるだろう。しかし、情報科教員との会話のなかでこの法則が出てくる事は稀だと思う。

ムーアの法則

「半導体の集積度は18カ月で2倍になる」

この法則が情報社会の一面を表現している事は確かだが、具体的な事はこの本を読んで初めて知った。

注目した部分を以下に記す。

1.情報の価値の定義式

Photo_2

本書では情報の価値をこのように定義している。その理由は次の通り。

身近な人の話題(分母が小さい)なら何時間でもおしゃべりできるし、どんな名些細なことでも話題になる。逆に、毎日1万人のアフリカ人がエイズで死んでいるというニュースは、いくら重要でも自分との距離が大きいので、話題にならない。他方、距離が大きくても、9・11のようなテロは新規性が高く、有名な芸能人の話題は娯楽性が高いので、情報としての商品価値がある。

この変数のうち、どの比重が高いかは人にもよるが、男性は新規性の、女性は娯楽性の比重が高いように見える。(以下略)

過剰と破壊の経済学 「ムーアの法則」で何が変わるのか? (アスキー新書 042)

この後、テレビなどのマスメディアは分母を小さくできないので分子を大きくするような要素に注目してきたとか、Googleの検索広告やAmazonのオススメなどは分母を小さくする技術である事が紹介されている。授業で活用できる内容だと考える。

また、この定義式は経済学的視点だけでなく、情報伝達の授業でも扱えると感じる。プレゼンテーションを組み立てたり評価したりするときに、分かりやすい指標になると言えよう。

情報の価値の定義と言えば「情報エントリピー」と条件反射するなかれ。Well-definedであれば多様な定義がありえることは数学示している。

2.IT業界のマーフィーの法則

失敗するプロジェクトの十分条件として以下の4つを提示している。

1 最先端の技術を使い、これまで不可能だった新しい機能を追加する
2 数百の企業が参加するコンソーシャムによって標準化が進められる
3 政府が「研究会」や「推進協議会」をつくり補助金を出す
4 メディアが派手に取り上げ、「2010年には市場が**兆円になる」などと予測する

過剰と破壊の経済学 「ムーアの法則」で何が変わるのか? (アスキー新書 042)

直後に、成功する必要条件として以下の4つを提示している。

1 要素技術はありふれたもので、サービスもすでにあるが、うまくいっていない
2 独立系の企業がオーナーの思い込みで開発し、いきなり商用化する
3 一企業の事業なので、政府は関心を持たない
4 最初はほとんど話題にならないので市場を独占し、事実上の標準となる

過剰と破壊の経済学 「ムーアの法則」で何が変わるのか? (アスキー新書 042)

成功する必要条件は失敗する十分条件の逆を言っている。

情報社会の進展を説明するときに、この4条件を上手く使う事は出来ないだろうか。本書では成功の具体例として iモード、スカイプ、グーグル、iPod を上げている。時代とともに具体例も変わっていくだろうから、リアリティのある授業ができると考える。

■ ところで。。。

情報科教育には「IT業界のマーフィーの法則」と同様な側面があると感じている。

最先端の技術を使い新しい機能を追加したICT教育機器、情報関連組織の連携による提言、教育行政による補助金絡みの授業提案、メディアによる教育の情報化に関する報道。失敗する十分条件はいろいろと思い当たる。

一方、成功する必要条件を満たしている授業提案は数が少ない。独断と偏見によれば「computer science unplugged(コンピュータを使わない情報教育アンプラグドコンピュータサイエンス )」や「アルゴロジック」あたりだろう。

情報科は情報社会に深く関する教科なのだから、情報科教育の進展も「IT業界のマーフィーの法則」を参考にしてはどうだろうか。

おまけ。

新書で提示された式を授業で扱うことに抵抗感が無いわけではないが、手段の一つと割り切ってしまってもよいと思う。

:-P

2012年1月24日 (火)

池田信夫氏が知らないであろう「教師のインセンティブ」

(T)

ツイッター経由で池田信夫氏のブログ記事(大阪市の橋下市長が日本の教育にたたきつけた挑戦状)を知った。経済学者であり影響力の大きいブロガーの記事であるから興味深く読んだのだが、どうしても気になる点がある。

以下、勢いに任せてみた。勘弁。

池田氏は経済学者であるからインセンティブに注目するのは自然であり、この点については異論が無い。しかし、「努力のインセンティブ=出世」のように高校教員を大企業の正社員と同様に捉えている点は反論したい。特に、コアな情報科教員の場合には当てはまらない。

 教育サービスは日本経済にとってもこれから重要な産業だが、その劣化は深刻だ。この根本原因は、教師にインセンティブがないこと だ。教師は長期雇用が保証されて年功賃金になっている点では大企業と似ているが、企業ではどの部署に配置されるかという人事による競争があるのに対して、 教師は同じような学校を転勤するだけなので、怠けてもペナルティがなく、努力しても出世するわけではない。大学の教師に至っては、転勤さえないので、怠け 放題だ。

大阪市の橋下市長が日本の教育にたたきつけた挑戦状

大企業の正社員は出世すると役職が上がり権限や部下、予算なども付いてくるが、これは大企業がピラミッド型の組織だからである。生涯給与や仕事の影響力を上げるインセンティブが強いのなら出世する意味は大きい。

一方、高校は教諭と管理職という「ナベ蓋型」の組織であり、教育業務を主に担当する教諭と学校経営を主に担当する管理職という構図になる。

教員は教育専門職であるから、自分の教育能力(授業や学級運営、各種教育活動)の向上が自身の成長であり、これにより生徒の成長や同僚教員からの信頼という報酬が得られることになる。(池田氏は信頼という報酬がインセンティブにならない教員を問題視していると推測するが、特に生徒からの信頼がインセンティブにならない教員がいるは疑問だ)

ところが管理職になると生徒に直接教育する機会のほとんどが剥奪され、一般教員の管理や事務処理などの教育ではない仕事をやらされる。公立高校であれば教育委員会と現場の板挟みが追加されるだろう。この意味において管理職ではない専任教員を保持する(=大企業でいう出世しない正社員になる)強いインセンティブがある。

コアな情報科教員という観点から、競争原理についてもコメントしたい。

 これに対して橋下氏が校長を公募するとか、教師を点数で評価して成績の悪い教師を免職するなどの規定が反発を呼んでいるが、大事なことは、命令系 統を明確化して教師に競争原理を導入し、努力のインセンティブを与えることだ。受験戦争では熾烈な競争が行なわれているのに、教師だけが競争を拒否するの は筋が通らない。

大阪市の橋下市長が日本の教育にたたきつけた挑戦状

コアな情報科教員にはブルーオーシャンという特殊な教科特性がある。具体的には、

  1. 教科自体の歴史が浅い(=ヒエラルキーや派閥が無い)
  2. コアな情報科教員の数が少ない(=密なコミュニティ)
  3. 教育実践が未開拓である(=パイオニアになりやすい)
  4. 教育内容がICTイノベーションの影響を受けやすい(=未開の地が広がる)

といったところである。

教育内容が全く安定していない情報科であるから、コアな情報科教員は「自分が情報科を開拓している」という意識が強いと言える。教育実践を公開する事で良い評判を得ると、教育実践に関する問い合わせや教科書執筆などの機会に恵まれることになり、さらに良い評判を得る可能性があがる。

また、コアな情報科教員は少数であり、実質的にほとんど顔見知り状態で密なコミュニティを形成している。都内のコアな情報科教員は国公私立を問わずお互いの事をすでに知っているし、Twitterやfacebookなどでゆるくつながっている。よって、よい評判は伝播しやすい環境である。

つまり、コアな情報科教員は「仲間からの良い評価」という報酬を受ける強いインセンティブがあると言える。ヒエラルキーはなく、権威は不在であり、未開拓分野だらけであり、時間の経過とともに(≒ムーアの法則により)新しいICTの世界が広がる。良い評価を得る可能性は他教科に比べて格段に高い。

現実問題として、都高情研では研究発表の希望者が多いので調整が必要だと聞く。コアな情報科教員にはすでに競争状態にあるのだ。

閑話休題。

生徒の競争は受験という「競争試験」の事であり、絶対的な点数ではなく点数による序列で評価が決まる。受験が終われば(合格すれば)この競争は終了する。

一方、教員の競争とは良い評価を得ると言う「評価競争」であり、教育実践の開拓という「パイオニア」によって評価が決まる。教育実践を公開しても定年まで授業は続く。

違う点が色々とあると思うのは私だけだろうか。

:-P

2012年1月 9日 (月)

俯瞰的な入門書 - 入門講座 デジタルネットワーク社会

(T)

社会学の先生に紹介されて入門講座デジタルネットワーク社会(インターネット・ケータイ文化を展望する)を読んだ。

あとがきによると、本書は東京経済大学コミュニケーション学科創設10周年を期に作られたものである。50代・40代・30代社会学に関わる研究者による共著であり、様々なネット体験を元に書かれている。

初版第1刷が2005年1月19日であるから、2012年からすると一昔前に書かれた書籍となる。しかしながら、現時点ではないように古臭さはなく読める一冊である。

気になっている部分を以下に記す。

1.キーワード解説と参考文献

多くの書籍では解説の必要なキーワードは脚注にすることが多いが、本書は45の重要キーワード解説に紙幅を割いている。自分にとって初見の内容もあり、今後の勉強のきっかけとして良いと思う。

一方、参考文献に関しては出版年数が古いものもあり入手しにくいのが気になる。

2.網羅的

書籍を読むと「ここがポイント!」のような部分を見出すことが多いのだが、本書にはそのような「ここがポイント!」は感じ取れなかった。これこそが本書の特徴である。

この本は社会学視点の網羅的入門書であるから、情報社会を俯瞰するつもりで読むことが大切だ。様々な視点があることを知り、興味・関心のある分野を見つけることができると考える。この意味で、情報科教員にお薦めの一冊である。

■まとめ

2012年現在、元教科が数学や理科である情報科教員が非常に多く、理数系関連の授業は充実したものになりやすい。一方、理数系以外の単元(社会学系、人文学系、芸術系など)は課題だらけである。

現状を踏まえると、本書は情報科教員が社会学から見た情報社会を知るきっかけになると考える。

情報科教育関係者に一読を願う。

(T)

2012年1月 6日 (金)

情報デザインの授業につながる - アフォーダンス-新しい認知の理論

(T)

東京学芸大学附属高等学校で行われた第10回公開教育研究大会の講演会で「環境と身体の心理学-アフォーダンス理論から教育を考える-」を佐々木正人先生から拝聴する事が出来た。

そこで紹介された参考図書が「アフォーダンス-新しい認知の理論」である。

アフォーダンスというキーワードは今一つ近寄りがたい存在だったが、本書のおかげで片鱗をうかがい知ることが出来た気がする。

「社会と情報」に関係しそうな部分を紹介する。

1.不変項

この本を読んで、「人の知覚は動きが大切である」と自分は理解した。その後半部分に出てくるキーワードである。重要な部分を引用する。

 光点の知覚研究では、身体という面を構成しているキメや色など、ふつうは豊富に存在する包囲光配列の他の特徴を全て排除して、「人間」という対象を構成している基本的な面の構造的な変形だけを提示しているわけである。わずかな配列の変形だけでも、「不変項」はよくピックアップされるのである。

アフォーダンスー新しい認知の理論 P.51

この後、ギブソンの後継者が不変項を構造不変項(=同一性の知覚)と変形不変項(=変化することの知覚)の2種類に分類する事を提案したとある。

光点の知覚研究を「社会と情報」で直接的に取り扱う事は考えにくいが、指導のバックボーンになると考える。例えば、プレゼンテーションにおけるジェスチャーやスライドなど、視覚的な情報伝達には直接的に関わる内容だと言える。

2.アフォーダンス

そして、アフォーダンス。

(前略)

アフォーダンスとは、環境が動物に提供する「価値」のことである。アフォーダンスとは良いものであれ、悪いものであれ、環境が動物に与えるために備えているものである。

(中略)

アフォーダンスは事物の物理的な性質ではない。それは「動物にとっての環境の性質」である。アフォーダンスは知覚者の主観が構成するものでもない。それは環境の中に実在する、知覚者にとって価値のある情報である。

アフォーダンスー新しい認知の理論 P.60, 61

アフォーダンスに関してはノーマンの誤用が有名であり、むしろ誤用の方が浸透している感がある。どちらの意味で使うかの是非はさておき、本来の意味を知る価値は高い。32ページに登場する動きに「姿勢」を見るとのつながりが見えると理解しやすいと思う。

「動物にとっての環境の性質」という表現は、先と同様に情報デザインで扱える可能性がある。具体的な教材や実用的な方法に関しては教材研究が必要だが、本質を知っていると教材の質が異なってくると考える。

デザインに関しては以下を引用する・、

 ドナルド・ノーマンは『誰のためのデザイン?』(野島久雄訳、新曜社(1990))の中で、道具はそれを使ってどのような行為を行うことができるのかがわかるようにデザインしておくこと、コンピュータによるシステムの設計もそれが何を阿フォードしているのかが、よく「言えるように」しておくことを提案している。一言でいえば、「物」ではなく「リアリティ」を、「形」ではなく「アフォーダンス」をデザインすべきだということである。

アフォーダンスー新しい認知の理論 P.104, 105)太字は著者

情報デザインに関する授業をするときに、色合いや配色、オブジェクトの配置などに注目する事は大切なことである。具体的な内容が無ければ、生徒は何を学べばよいか分かりにくいからだ。しかし、「物」や「形」にこだわり過ぎると情報デザインの本質を見失う。

生徒達に教える情報デザインに「リアリティ」と「アフォーダンス」が含まれることと、「リアリティ」と「アフォーダンス」を教えることが両立出来れば理想形だろう。アフォーダンスを内包する教材研究の必要性を感じた。

■まとめ

情報の授業に「リアリティ」と「アフォーダンス」があれば、世間は情報科を好意的に認知してくれるかもしれない。日々是精進である。

:-P

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