社会学の研究者とプライバシーや個人情報について話をしたところ、監視社会を紹介されたので読んでみた。
門外漢が頑張って読破した結果、注目した部分をメモに残す。
1.人間は「身体と魂と( )
個人のアイデンティティー登録様式について、著者のライアンは過去(1994年)にこう指摘している。
あるロシアの格言によれば人間は「身体と魂とパスポート」からできているそうで、数年前に私は、これを今日風に言うと「身体と魂とクレジットカード」となると述べた。二十世紀において、個人のアイデンティティーの登録様が、国家の必要とする主に書類形式から、商業ビジネスの必要とする電子的に保存されるデータへの増殖へと変化したというのが、当時の私の論点だった。(監視社会 P.120 太字は筆者)
ここでいう当時というのは1994年であるから、20年近く経過した今日(2013年)であれば別の状態だと考えるのが自然だろう。そこで、生徒達に考えさせたい課題がある。
問:情報化された現代社会を、ロシアの格言風に表現し、説明せよ。
コンピュータ化以前:人間は「身体と魂とパスポート」
コンピュータ化以降:人間は「身体と魂とクレジットカード」
情報化された現代社会:人間は「身体と魂と( )」
SNSと答えるだろうか。クラウドと答えるだろうか。スマートフォンと答えるだろうか。
どのように説明するだろうか。
2.「事後的対応」から「予見的先制行動」へ
監視といえば、監視カメラのように有事の際に活用できる情報を収集するといった事を連想するようだが、本書は次のステップに向かっていると指摘する。
かくして、これらの組織に有用な一定の緒カテゴリーに沿って個人が作り上げられ、それが、犯罪行動の除去や少なくともその最小化の試みに用いられるデータベースを生み出す。今日の警察の関心事は、事後的に犯罪者を逮捕する事ではなく、犯罪行動を先取りすること、リスク計算に基づいてそれを類型化し、抑制・阻止することの方にある。(監視社会 P.244-245)
引用部分は警察について述べているが、商業的利用や個人認証といった幅広い範囲で「事後的対応」から「先見的先制行動」へ関心や実態が移っていることが述べられている。
情報社会においても様々な個人情報は収集されているが、その目的は「先見的先制行動」である。facebookといったSNSでは利用者の行動を収集し、ターゲットマーケティングに活用しているし、生体認証で登録している生体情報は監視というよりも個人認証によるプライバシーの強化がなされている。
この図式は年々変化するだろうが、生徒達にとっては実感の湧きやすい部分だろう。
3.訳者のあとがき
訳者のあとがきが書籍全体をうまく要約していて、門外漢にとっては大変ありがたい。その中でも「社会と情報」と使えそうだと直感した部分を紹介する。
「監視社会-監視=(よりよい)社会」という等式は成立しない。
(監視社会 P.303)太赤字は筆者
生徒達は「監視=悪」という固定観念を持っているかもしれないし、「監視」という単語には悪い印象を持っているかもしれない。
しかし、情報社会における監視には様々な側面がある事は事実である。生徒達の思い込みを突き崩し、一歩進んだ理解を促す授業には、使える等式だと直感する。
■雑感
事前に「一九八四年新訳版 [ ジョージ・オーエル ]」を読んでおくと理解が進む。
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